はじめに

「最近、何となく体が重い」「疲れやすくなった」「肌のツヤが失われてきた」
そんな実感を持ち始めた方も多いのではないでしょうか。

ぼくは東洋医学、特に中医学の観点から多くの方の健康相談に携わってきました。
その経験から、人間の老化について重要な事実が見えてきました。
それは、老化はぼくたちが考えているような緩やかな過程ではないということです。

実は、人生には二つの大きな転換期があります。
44歳と60歳です。
この年齢で急激な老化が訪れることが、アメリカ・スタンフォード大学の最新の調査結果が学術誌「Nature Aging」に発表した論文(https://www.nature.com/articles/s43587-024-00692-2)にまとめられています。

今回はこの重要な事実を踏まえた上で、特に40代からのアンチエイジングの大切さについて、中医学の知恵を交えながらお伝えしていきます。

老化とは何か―中医学からの視点

中医学では、老化を「乾き」「固さ」「弱さ」という三つの要素で捉えます。
これらは単なる身体的な変化ではなく、人体の根本的なバランスや心の変化を表しています。

まず「乾き」について。年齢を重ねるにつれ、ぼくたちの体は様々なかたちで乾きの症状を見せ始めます。
肌のハリや艶が失われ、関節が軋むようになり、疲れやすくなります。
のどの渇きを感じやすくなったり、便秘傾向になったりするのも特徴です。
これは体の水分バランスが崩れ始める証拠です。

中医学ではこれを「陰虚」と呼びます。「陰虚」とは、体を潤す力が衰えた状態を指します。
不必要な熱を冷ますことが出来なくなり、女性の更年期に起こりやすいのぼせ、ほてり、寝汗、耳鳴り、生理不順、カサカサ肌、ドライアイ、口が乾く、微熱、便秘、から咳といった症状が出ます。

次に「固さ」です。これは血行不良や代謝の低下によって起こります。
朝起きた時の体のこわばりや、運動後の回復の遅さとして現れます。
また、首や肩のこり、むくみ、冷えなども特徴的な症状で、そこから引き起こされる体自体の固さに繋がっていきます。

つまり、柔軟性がなくなっていくということです。
これは体に限ったことでなく精神的な固さ、柔軟な考えが出来ずガンコであることも含まれます。

中医学ではこれを「気滞」や「瘀血」の状態と言います。
「気滞」とは気の流れが滞った状態、「瘀血」とは血液の循環が悪くなった状態を指します。
「気滞」は現代医学の自律神経に重なり自律神経が失調しています。

精神的に不安定になりイライラ、怒りっぽい、憂うつ、不安、落込みやすい、偏頭痛、ストレスがたまりやすい、おなら、ゲップ、不眠症、高血圧、生理不順PMSといった症状が出ます。

「瘀血」は新陳代謝が低下し、老廃物が溜まりやすくなります。
身体がだるく、疲れが取れないといったことも特徴です。
関節痛、手足の冷え、シミ、そばかす、唇が暗い色、便が黒っぽい、肩こり、頭痛、静脈瘤、慢性的な痛みやコリ、シコリ(腫瘍、種塊)ができやすい、生理周期が不安定、月経血が黒い塊が混じることがあるなどの症状が出ます。

そして「弱さ」です。これは身体全体の活力低下として現れます。
疲労回復力の低下、免疫力の低下、そして精神的な活力の減退です。
風邪をひきやすくなったり、気力が減退したり、集中力が低下したりするのもこの症状です。これは「気虚」の状態を指します。

「気虚」とは生命エネルギーである「気」が不足した状態です。
立っているのが苦手で、すぐに腰をかけたくなります。
そして、常に疲労、怠惰感、冷えがあり、風邪をひきやすく治りにくい、食が細くなり、胃腸が弱くなります。
胃もたれ、軟便、下痢、花粉症などのアレルギー、頻尿、夜尿症、不感症、不妊症といった症状が出ます。

これら三つの要素は、互いに密接に関連しています。

  • 「乾き」は「固さ」を招きやすい
  • 「固さ」は「弱さ」を助長する
  • 「弱さ」はさらなる「乾き」を引き起こす

老化の三要素を理解することは、効果的なアンチエイジングの第一歩です。
このような悪循環を防ぐためには、これら三つの要素すべてにバランスよく対応することが重要です。
自分の体にどの要素が強く現れているかを知ることで、より的確な対策を取ることができるようになります。
その具体的な方法については、後半に詳しく解説していきます。

医療システムの転換期と新しい健康管理の時代

2025年、日本の医療は大きな転換点を迎えます。
いわゆる「2025年問題」です。

団塊の世代が75歳以上となることで、医療・介護の需要が急増する一方、それを支える現役世代は減少の一途をたどり、医療費の急激な増加、医療従事者の不足、介護施設の不足、地域医療体制の維持困難といった問題が表面化してくると言われています。

このような状況下では、従来のように医療機関に依存した健康管理は難しくなることが予想されます。
重症化しないと診てもらえない、完治していないのに退院させられるといったことが現実的に起きてきます。
つまり、「自分の健康は自分で守る」という意識と行動がこれまで以上に重要になってくるというわけです。

人生100年時代の本質

「人生100年時代」という言葉が示すように、私たちの寿命は着実に延びています。
しかし、ここで考えなければならないのは、単に長く生きることよりもいかに健康な人生を送れるかという点です。

どれだけ長く生きたところで身体の様々な不調や病気を抱えていたら楽しくないです。
むしろ生き地獄です。

経営者や起業家にとって、健康管理は事業戦略の一部と言えます。
なぜなら、健康は持続的な事業運営の基盤であり、明晰な判断力と決断力には心身の健康が不可欠だからです。

あなたは身体の調子が悪く、不健康そうな方とお仕事をしますか?
またはお仕事を依頼したいですか?

そういった周囲への影響力を考えても、経営者自身の健康は重要な要素となるのは明白ですよね。
このように、2025年問題と人生100年時代は、私たちに健康管理の新しいアプローチを求めていると言えます。
それは、より主体的で、予防を重視し、長期的な視点に立った健康管理です。
医療機関との関係も、「依存」から「連携」へと変化していく必要があるでしょう。

40歳からはじめるアンチエイジングの本質

では具体的に、40歳からどのようにアンチエイジングに取り組めばよいのでしょうか。
中医学において、腎は単に臓器としての腎臓だけでなく、生命エネルギーや成長、発育の源と考えられています。
骨や髄(骨髄)とも深く関係しており、これが血液の生成とも結びついていて、40代以降はこの腎の機能を守ることが極めて重要になります。

そして、「気」は生命活動を支える根本的なエネルギーとされています。
40歳を過ぎると、この気が徐々に減少していきます。
そのため、「気」の消耗を避けることと意識的な「補気」が重要になってきます。
睡眠を最優先する。
睡眠は腎機能を守る最も重要な要素です。

やる事が多くてお忙しいとは思いますが、午後11時には睡眠をとってください。
中医学的には「乾き」に繋がるからです。
腎は身体の熱を冷まし潤いを与える臓器とされていて、睡眠はその力を養う大切な時間です。
とはいえ、やらなければいけない時もありますよね。

でも、どんなに遅くても午前3時には寝てください。
睡眠学的には午前3時以降は睡眠ホルモンの分泌量が著しく低下してしまうんです。
(ちなみに睡眠ホルモンの分泌量がピークなのは午前2時です)

睡眠の質もへったくりもなくなってしまいます。
腎の機能を養うことができなければ老化が進むばかりではなく、あらゆる不調が現れてきます。
しかも静かにゆっくりと…
そしてある日突然、残酷なかたちで姿を現します。

意識的な休息時間の確保
睡眠以外にも意識的に心身をリラックスさせる時間を設けてください。

ぼく自身も睡眠以外(しかも短い時間)は仕事!
みたいな時期がありましたが今振り返ると作業効率は悪いしミスも多い、常にイライラ、セカセカ、不機嫌モード(に見えるらしい)でした。

何もしない、何も考えない時間を取ることがより良い睡眠に繋がります。
これも腎の消耗を防ぎます。
なかなか時間がとれなくても一日のうちに数回深呼吸をしたり、5分くらい目を閉じるだけでも頭も心も体も休ませることができます。
思った以上の効果を感じることができると思います。
ぜひ試してみてください。

メディアとの適切な距離
現代社会では、常に情報にさらされています。
特にネガティブなニュースは知らず知らずのうちに腎の気を消耗させます。

中医学的には腎は不安や恐怖、驚きといった感情にとても影響を受けるからです。
一番の治療法はデジタルデトックスとさえ言われていて、スマホをはじめとしてインターネットから距離をおくことです。

ぼくのところに相談にいらっしゃった方はこれで腎機能が回復した例もあるくらいです。
眠れないという方は就寝前3時間くらいからは情報のインプットは避けた方がよいかもしれませんね。

スマートフォンやパソコン、テレビなどの情報機器から距離を置くことで、腎の機能を守ることができます。
鹹味(かんみ)を取り入れる。

中医学では、鹹味(かんみ)の食材が腎を養うとされています。
具体的には、海藻類(わかめ、のり、こんぶ)、貝類、黒豆、かぼちゃの種などを積極的に取り入れると良いです。

44歳と60歳の急激な老化に備える

人生において、44歳と60歳は特に重要な転換点となります。

アメリカ・スタンフォード大学の最新の調査結果から分かるように、これらの年齢で訪れる急激な老化は、避けることのできない生理的な変化です。

しかし、適切な準備を行うことで、その影響を最小限に抑えることができると考えます。
中医学の観点から、それぞれの年齢に向けた具体的な準備について見ていきましょう。

40代:腎機能の強化期

この時期は特に腎機能の強化に重点を置きます。
言い換えてみれば、腎臓の機能の低下を防ぐということです。
30~40歳で腎機能の低下がはじまるからです。
とにかく十分な睡眠の確保(午後11時には寝る習慣を)と適度な休息、そして鹹味の食材を意識的に取り入れることが重要です。
過労を避け、デジタル機器との距離を適切に保つことで44歳からの変化に備えたいです。

50代:気の補給期

50代になると、40代対策に加え「気」の補給に焦点を当てる必要があります。

それは50代で肝気が、60代で心気が衰えるからです。

ちょっと聞きなれない専門用語になってしまいましたが、要は人間の生命活動には「気」というものが存在していて肝臓や心臓も「気」の調子が大きく影響しているということです。

肝臓の気が衰えたり流れが悪くなったりすると、イライラするばかりではなく目の疲れを感じることが増え、体力低下が起こりやすくなります。

肝臓は血の貯蔵庫とも言われ血流を司る臓器でもあるので、肝臓を元気にするには血虚対策が大切になります。

「血虚」とは血が不足している状態で血中の栄養分や血が行う働きが低下している状態のことです。

ですので、「気」を補うことも大切ですが「血」を補う方法も知っておいて欲しいのです。

「血虚」の症状としてはカサカサ、痒みなど肌のトラブル、白髪や抜け毛、生理不順、不妊症など婦人病を起こしやすい、疲れ目、視力減退、動悸、息切れ、不整脈などの心臓疾患にもなりやすく、精神活動にも大きく影響します。

そして「血虚」になる原因の多くは無理なダイエットです。

また朝食を抜いたり、夜更かしなどの不規則な生活が主な原因です。

朝はしっかり食べてしっかり睡眠をとることが一番の養生です。

補血作用の強い食材を召し上がって下さい。

黒ゴマ、黒豆、黒きくらげ、プルーン、レーズンなどの黒色食材。

にんじん、トマト、クコの実などの赤色食材。

牡蠣、レバー、地鶏、ほうれん草、小松菜なども補血作用が高いです。

生活アドバイスとしては、散歩が効果的です。

中医学では、腎には造血作用があるとしています。

そして血液は主に大腿骨で作られます。

ですので、大腿骨を動かすイコール造血作用となるのです。

この理論は、現代医学でも骨髄での造血というかたちで裏付けられています。

次に「気」を補給することについてお伝えします。

先ずなんと言っても過労を避けることです。

十分な睡眠をとり、ウォーキングやストレッチの軽運動を楽しみ、規則正しい生活リズムを確立することが大切です。

アーシングもとてもおススメです。

胃腸が弱い方は脂っこいもの、甘いもの、刺激の強いものを食べ過ぎないようにしてください。

また「気虚」の方は身体が芯から冷えやすいので調子が悪い時は特に冷たいもの、野菜サラダを含む生ものを避けてください。

消化するのに気を消耗してしまいます。

補気作用のある食材を普段から意識して摂られるといいと思います。

山芋、米、芋、豆、きのこ、牛肉、鶏肉、うなぎ、えびなどです。

以上のように、40代では腎機能の強化、50代では気血を補うとアンチエイジングにはとても効果的だと思います。
ただし、これは最大公約数的な考え方です。
他のブログでもお伝えしておりますが、やはり自分自身の体質を知ることがとても大切になってくることを付け加えたいと思います。
ご自分の体質を知って、日々のちょっとした習慣を積み重ねていけば必ずしや年齢とともに訪れる変化への最良の備えとなることでしょう。

まとめ 予防的アプローチの重要性

アンチエイジングは、問題が現れてから対処するものではありません。
特に40代は、将来の健康を左右する重要な時期です。
この時期に適切な対策を始めることで、44歳と60歳の急激な老化に対してより良い準備ができます。

最後に一つ付け加えたいのは、これらの取り組みは決して難しいものではないということです。
実際に、病弱だったのに今までで一番調子が良く、風邪一つひかずに心身ともに健康を手に入れた60歳の女性や最幸の人生を送っていらっしゃる70歳の女性を知っています。
日々のちょっとした習慣の積み重ねが、大きな違いになります。

明日からでも、できることから始めてみませんか?
たとえば、今夜は普段より30分早く就寝する。
それだけでも、アンチエイジングへの第一歩となるのです。
あなたの健康な未来のために、今日から新しい一歩を踏み出しましょう。

この記事についてのご質問や具体的なアドバイスが必要な場合は、お気軽にご連絡ください。個別のカウンセリングも承っております。